アーユルヴェーダでは、宇宙も人間も同じ原理でできていて、自然界を大宇宙、私たちを小宇宙と捉えます。スケールは違うものの自然界も人も同じものを持ち、互いに影響しあっています。そして私たちのいのちは「自然」と深くつながっていると考えます。アーユルヴェーダではこうした考えを基に、エネルギーのバランスやその流れに着目します。

この世界を形づくる五大元素:パンチャ・マハブータ(空・風・火・水・地)は体の中にもあり、その組み合わせから生まれる3つの生命エネルギーが ドーシャ(ヴァータ・ピッタ・カパ) です。
ドーシャが体のバランスを整える一方で、心の世界には マハグナ(サットヴァ・ラジャス・タマス) という3つの質が働いています。ドーシャが乱れると、心のグナも不安定になり、逆にサットヴァ(調和・静けさ)の質が育つと、体の調子も自然に整っていきます。
体と心は深く繋がっており、アーユルヴェーダを通して自分を整えることは、自然と調和して生きることに繋がります。

マハグナとは
マハグナとは、サンスクリット語で Mahā(偉大な)+ Guṇa(性質)をあわせた言葉で、
「心に作用する3つの基本的な性質(質)」を意味します。
アーユルヴェーダやヨガ哲学では、このマハグナ(心の3性質)が、私たちの考え方・気分・行動・意識の状態を左右すると考えます。3つの性質とは
〇サットヴァ:純粋性
〇ラジャス:動性
〇タマス:惰性
です。
サットヴァは、純粋性、主観的な意識、知性、調和していて、ラジャスとタマスのバランスが取れた質のこと。
穏やかで、思いやりがあり、思慮深い。心のバランスが取れている。

ラジャスは、動性、移動性、活発、焦り、不安。動き、情熱、エネルギッシュな質のこと。
やる気、興奮、欲求、焦り等を感じやすい。活発な思考や行動を可能にする。

タマスは、惰性、鈍性、暗闇、鈍く落ち着いた質のこと。
重さ、停滞、眠気、怠け、混乱、落ち込みやすい。他人の影響を受けやすく、意欲が低下しやすい。
タマスにより休息や睡眠を取ることができる。

これら3つのグナのうち、どのグナが悪いというわけではなく、すべてが必要な質であり、常に変化しながら私たちの心を形づくっています。サットヴァから知識を得て、ラジャスにより行動ができ、タマスにより休息や睡眠を取ることができます。
ラジャスとタマスのバランスが取れた時、心身共に調和のとれたサットヴァな状態となります。
心は本質的にはサットヴァの状態であり、自分の本質的なところに触れればサットヴァは増えていきます。つまりヨガを通して自分の本質に触れることは、サットヴァに近づいていくことに繋がっています。
私たちは日常生活の中で常に、今の状態が「サットヴァか?マハグナの割合は?」と問いかけていくことがとても大切です。
五大元素(パンチャ・マハブータ)とは
アーユルヴェーダでは、私たちの体も心も、自然界と同じ5つの要素 (五大元素)― 空・風・火・水・土(地) ― からできていると考えます。
この五大元素のバランスが、心身の調和を生み出し、自然と調和して生きる力を育ててくれます。
「パンチャ(Pancha)」=5つ、「マハ(Maha)」=大いなる、「ブータ(Bhuta)」=存在・元素、という意味があります。
パンチャ・マハブータは全ての物質の中、そして私たちの中にも存在します。
5つの要素とは
⚪︎空(アカーシュ)
⚪︎風(ヴァーユ)
⚪︎火(アグニ/テージャス)
⚪︎水(ジャラ)
⚪︎土(プリティビ)
です。これらの要素は上の要素を少しずつ含んでいます。もう少し詳しく見ていきます。
空(アカーシュ)は、最も微細な元素。何かが生まれる“余白”、空間。物理的な存在はなく、物質を分離する距離としてのみ存在する。

風(ヴァーユ)は、動きが生まれ、流れ始める。物質の気体状態、移動、向き、速度に関係している。風は形のない存在。

火(Fire)は、摩擦によって“変化・熱”が起こる。変容を司り、熱を供給する。体温、適切な消化、代謝のために必要。
物質を固体から液体に、またはその逆に変換する。火は実質のない形。

水(Water)は、流れがまとまり“形を保つ”。物体の液体状態。滑らかな動作、生命。水は安定性のない物質。

地(Earth)は、固まり、安定し、実体をもつ。物質の固体状態。個性、安定性、構造を与える。地は安定した物質。

空は広がり、風は動き、火は変化、水はつながり、地は安定をあらわします。
この五大元素が組み合わさり、ドーシャと言われる3つの生命エネルギーが生まれます。
ドーシャとは
ドーシャとは、五大元素:パンチャ・マハブータの5つの要素(空・風・火・水・土)が組み合わさって形成された3つの生命エネルギー、―ヴァータ・ピッタ・カパ ― のことです。体や心のバランスをとるエネルギーであり、同時に、バランスを崩す原因にもなるものです。
受胎時に五大元素の割合、すなわちドーシャが決定し、それが私たちの本質(プラクリティ)となります。3つの生命エネルギー(トリドーシャ)についてもう少し詳しく見ていきます。
3つの生命エネルギー(トリドーシャ)
〇ヴァータ:空+風
〇ピッタ:火+水
〇カパ:水+土

ヴァータは、空と風が組み合わさったエネルギー。風は空間の中で自由に動くため、運動のエネルギー。
「風」の要素を多く持ち、代表的な性質は「乾」。不規則性がある。
ピッタは、火と水が組み合わさったエネルギー。食欲、消化力が強く、情熱的であり、変換のエネルギー。
「火」の要素を多く持ち、代表的な性質は「温」。
カパは、水と土が組み合わさったエネルギー。水分を含んだ物質を簡単に貯蔵する傾向があり、結合のエネルギー。
「土」の要素を多く持ち、代表的な性質は「重」。
◉ドーシャの主な特質
| ヴァータ(空+風) 運動のエネルギー AM/PM 2:00-6:00 |
ピッタ(火+水) 変換のエネルギー AM/PM 10:00-2:00 |
カパ(水+土) 結合のエネルギー AM/PM 6:00-10:00 |
|
|---|---|---|---|
| 主座 | 大腸(下半身) |
小腸(腹) |
胃(上半身) |
| 季節 | 秋の終わりと冬 | 夏 | 春 |
| 質(グルヴァディグナ) | 乾・冷・軽・鋭・硬・動・流・微・荒・清 | 温・湿・軽・鋭・硬・動・流・微・滑・清 | 重・冷・湿・鈍・軟・静・固・粗・滑・濁 |
| 整っている時 | ひらめき・柔軟・創造的・活動的 | 集中・情熱的・判断力・決断力 | 落ち着き・思いやり・持久力・穏やか |
| 過剰になった時 | 不安・冷え・便秘・眠りが浅い・乾き | イライラ・怒り・胃の不調・体臭 | 停滞・だるさ・執着・体重増加・頑固 |
| 鎮静する味 | 甘味・酸味・塩味 | 甘味・苦味・渋味 | 辛味・苦味・渋味 |
| 乱す味 | 辛味・苦味・渋味 | 辛味・酸味・塩味 | 甘味・酸味・塩味 |
| ライフステージ | 壮年期 (50歳以降) 乾燥・不規則な動き |
思春期〜壮年期 (15-50歳くらい) 働く・燃える・変化 |
思春期まで (0〜15歳くらい) 育つ・増える・潤い |
アーユルヴェーダにおいて、ドーシャは「体質」として、個性や行動様式、体調などを表現するために用いられます。生まれながらにして持つ、本質的な自分、本来持って生まれた体質をプラクリティ(永久に変化しない)、何らかの原因で乱れた状態としての特徴や状態をヴィクリティと言います。
摂取した食べ物や、感情、環境、生活習慣などにより、本質であるプラクリティから遠ざかったり、近づいたりすることにより体調が整ったり、不調が現れたりします。アーユルヴェーダでは「真の健康と幸せ」を手に入れるために
似たものが似たものを引き寄せ、相反する性質がバランスをもたらす
というアーユルヴェーダの重要な原理原則に基づいて、ドーシャのバランスを調整します。体や心、態度、行動、言葉など自分を取り巻く環境に意識を広げて、今の自分はどの質が過剰になっているのか、または不足しているのかを正しく知り、その原因となっていることをやめるか、あるいはその質と反対の質を取り入れることで、本来の本質的な自分に近づいていくことを大切にします。
※参考文献:森の時計発行 AYURVEDA


